これ、大盛りとかってないですかね?
20代の頃、職場で少し孤立気味でした。
女性が多いからというのはありましたが、それに加えて、私自身も今よりとがっていたと思います。
当時、仲の良い男性上司がいました。50代、家庭も持っていました。
時々、仕事帰りに廊下で会うと、「コーヒーでも飲んで行かない?」と誘ってくださいました。
孤立気味の私を見かねて、というのもあったでしょうけど、その上司も若干我が道を行くタイプ(のんびりしていて、漫画家の蛭子能収さんみたいな感じ)。
まあ似た者同士だったのかなと。
私としても、余りしょっちゅうだったら困りますが(仲良しでも気は使いますし、帰宅も遅くなりますし)、たまに一緒に飲食するぐらいなら、楽しいので、喜んでお供していました。
まあ本音を言うなら、女の子と遊びたい盛りの年頃でしたが、彼女も全くいませんでしたし、むしろ、この上司と仕事帰りにコーヒーを飲むのは、貴重な「他人と遊ぶ機会」でした。
心境としては、俺ってむなしいよなあ、でも割と楽しいからまあいいか、という辺り。
さて、ある夜、そんなふうに二人で喫茶店に入った時のこと。
コーヒーだけじゃ物足りないねと、ポテトチップスも注文することに。
注文を聞きに来たウエイターさん(お若い方で、スーツでバッチリ決めてました)に、その上司は、何を思ったか、こんなことを尋ねたのです。
「ポテトチップスください。これ、大盛りとかってないですかね?」。
ウエイターさんは苦笑して、「いや、大盛りはないですね」。
「じゃあ、普通で」と上司。
ここのお店は、お酒も料理も出す、結構ちゃんとしたところ。
そこへ、何だかさえないサラリーマン二人組が来たかと思えば、頼んだのはコーヒーとポテチだけ。しかも大盛りがないか、だと。
恐らく、「何だこいつ(ら)」と思われたことでしょう。
やがて、注文したものが運ばれてきました。
皿の上に小さなバスケット。中にはポテトチップス。あふれて、大量に何枚も皿の上にこぼれ落ちていました。
私も上司も爆笑。まさに大盛りです。「やられた!」という感じでした。
ウエイターさんは笑わず、すました顔で戻っていきました。内心、してやったり、だったことでしょう。
新橋付近のビルにあった、たしか「ラスベガス」というまぶしい名前の喫茶店でした。
今はもう、ビルごと取り壊され、建て替えられてしまったけれど、ここら辺を通ると、ウエイターさんのあの粋なはからいを思い出し、若い頃を一人で懐かしんでいます。
良いお年を。